遠隔作用/A道化
 




指、で押す
蝉のお腹の柔らかさのことを
私はぼんやり考えている


お腹、を
開いた人は
仰向けになり空の方角へ開いている


光、の直進は
結局ことごとく挫折していると
私はぼんやり考えている


開かれたお腹、には
太陽が辿り着かず
代わりに蛍光灯が集中している


光、の直進は今
私の腕の肌色に挫折して
何処にも届かないでいる


台の上で
ぐったり素っ気無く見える腕は
祈りの形をとらずに誰よりも夏を願っている


踏み潰せば
死んだ蝉のお腹はさくっと鳴ったけれど
生きたお腹のことを、私は知らないでいる


花のようにお腹を開いた人の周りには
お腹を開いていない人間が昆虫のように群がり
夏を夏を夏をと願うお腹へ夏を与えようとしている


自由な手のひらが今ふと合わさったのは
何処かの誰かが願った祈りだと
私はぼんやり考えている



2004.8.5.
戻る   Point(9)