トマト/アンテ
 
糸が切れて
彼女はベッドのうえにどさっと落ちる

それでも
ぼくという入れ物が
彼女の形を歪ませているのは事実だ

いつのまにか
外れてしまった呼吸器のチューブが
かすかに震動している
アラームランプが灯って
彼女があわててぼくの喉につなぎ直してくれる
こらーっ
ドアから顔だけだした看護婦さんの
目が笑っている

ぼくの耳もとで
彼女の唇がゆっくりと動いた
ぼくには聞き取れないのに
なんて言ったのか
自然に判った

トマトの形が丸だなんて乱暴よね
ひとつずつ違ってるのに

空気の塊がとつぜん肺からこみあげて
でも
喉に達するまえに
カニュレから放たれて呼吸器へ逃げていった
言葉になるはずだった空気
伝えなければならないはずの言葉
デジタルメータが
ぼくの呼吸にあわせて上下している
あれがぼくの
言葉
ならいいのに

ゆっくりと上半身を起こして
白い手をにぎりしめて
彼女は真っ直ぐにぼくを見る
じっと見ている


                 連詩「メリーゴーラウンド」 1


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