海のない街にも港はある/HTNYSHR
漕ぎ出した船は解けてゆくロープを海面に引きずりながら真っ直ぐに進んでいく
見送る港ではまだ明るいのに電灯がともる
場違いなエンディングライトが崩れ落ちたヒロインを照らしているかの様
暮れ始めた空が進行に追いつこうと必死になるが物語だけが駆け足で進んでいく
港には薄暮れと乾いた風だけが残されて
輝かしい航跡を残しながら音もなく進む船を見送っている
暮れてゆく沖は茫々として
ゆくものは波間をゆき
しずかなこころのときがきた
ものごとの流れの中でいつも取り残される
言葉にならないことばたちが
ぼそりぼそりという
ひかえめでいつも美しげな何気ない主張は
今日もまた波の音にかき消されて
音もなく動いた口もとだけが小さく開閉していた
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