海のない街にも港はある/HTNYSHR
海のない街にも港はある
穏やかに凪いだ海面を滑るように白帆が進んでいく
たどり着いた港には解かれたロープだけが残されて
消えかけた航跡を追えば沖の船が踊っているのが見える
ちょうど舞台と客席みたいな距離感だった
与えられた役割に忠実なエキストラのようなぎこちない演技
波間に白立つ歪さはさめざめと揺れる心の行方を孕んでいた
突堤に突っ立ったまま見送る後ろ姿も少し可笑しな右肩下がりで
両腕を広げたままの案山子みたいな無力感を背負っていた
空には雲一つ無い絶好の航海日和
焦れったいまでの永い永い間の呼吸を転じて
破られた時を際限ない力が奔流となって流れ出したのだ
漕ぎ
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