訪れ/石瀬琳々
障子に陽がうすら射すと
はらはらと
失われた記憶が降って来る
わたしを見つめる瞳がある
胸のなかをそっと覗くように
わたしはきつね
さびしいきつね
指でなきまねをする
ひとりあそびの束の間に
ひらひらと
重なる影がひとつ揺れる
なぜだか胸が痛くなって
障子を開くと銀杏の落葉(らくよう)
ちょうちょ
ちょうちょ
今にも飛んでゆきそうな
とどまらず漂いゆく光よ
きらきらと
一瞬の命に心は魅せられる
あるかなきかの予兆にも似て
この指先をかすめてゆくのは
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