ナイフ/ホロウ・シカエルボク
 
てから何年が過ぎたのだろう?母親は今でも可哀想な未亡人の役にどっぷり浸かっているのだろうか?おかしなものだ、父が死んだとたんに彼女は貞淑な女になった…父親との人生は幸せなものだったと、一日の内に何度も遠い眼をしてはそんなことを口にした、父親がそれについて何事か意見を述べることが出来たとしたらいったい何と言うだろう?と私は考える―少なくともそれは母親の意見と一致することは決してないであろう―爪を研ぎ終わり、ナイフを皮のホルダーにしまう、とたんにそれがぬくもりを持つように見えるのは、私の勝手な感覚であってナイフのせいではない…私だって本当は安堵し続ける毎日に焦がれているに決まっているのだ…覆われたナイフ、そこには視覚的な凶暴さはもう見受けられない、でもだからこそ、という新しい存在感が窺える、覆われたナイフ、私は整った指先をゆっくりなぞりながら薄く笑う



お父さん、このナイフのこと、好きだったんだよね、いちばん。




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