昨日は孤独な世界?/錯春
 
子の姿は消えていた(ちょうど昼時だから、カルボナーラでも食べに行ったのだろう)。
彼は涙をたたえた瞳で、手のひらの精子を見る。
彼は決して浅はかではない。
性行為は常に涙と共に存在する。

(……なーんてね、そんなこと、あるわけない)

そして、発射後の冷静な頭で、数分前の自分の誓いをあざ笑う。
しかし、彼は聡明である。
性別がなんらかの欠損を元に形作られること。
そして、性別にはもう一つ、その存在の立証の方法が存在する。
それは自分が欲する他者の為に、自分の性の役割を認識すること。
彼の自慰行為の最中に咄嗟に思った妄想は、それを暗示しているものに他ならない。

(タマトは、ペニスの処理を終えたあと、トイレへと立ち上がる。
濡れた膣を、ビデで洗浄するためだ)

果たして、彼は明日、いつものようにゴミだしをする。
そしてそこに誰が待っているのか。
それとも、誰にも遭遇し得ないのか。
どちらでも構わない。
そのどちらにしても、彼にとって、自分の性器から逃れられる期間なぞ、限られているのだ。

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