融解/結城 森士
懐かしい顔で微笑む
だが僕は挨拶をすることができない
君の名前を思い出せないのだ
君の顔を断片的に覚えていても
君が幼少の友だちであることを覚えていても
君がどんな性格であったかを大まかに覚えていても
どういう訳か、僕には君の名前が思い出せないのだ
僕たちは遊んだが、僕は君の声を思い出せないのだ
君がどんなに大声で笑おうと
どんなに僕の名を呼ぼうと、僕には届かないのだ
耳では聞こえていても、僕には届かないのだ
何もかもが遅すぎた
空が溶けていく
白い雲も、淡い水色も
杉林の深い緑も
マンションや道路のコンクリートも
何もかも、原型を崩
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