フルムーン・ラプソディー/渡 ひろこ
 
夜気に退屈をさらけ出すプラタナスが
細い小枝で編んだ投網で上弦の月を引っかけている
葉陰から木漏れ日のように明かりを点滅させて
モールス信号を送る橙色


きっと月の頬には痕が残るほど
網目が食い込んでいるのだろう
憂鬱な月の溜め息が重い冷気となって
背中に圧しかかる


せかされるようにコートの衿を立て
キリキリと尖ったヒールで
アスファルトを響かせて歩くのは
背後で星屑を吐きながら嘆く
月の戯言を退けるためではなく
アノ人の影が薄紫のストールとなって
ふとした透き間に私を包もうと
密やかに追いかけてくるから



強がらないとすぐにでも振り返って
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