丸川/真鍋 晃弘
 
丸川はグラスを飲み干すと
辛い話をはじめた
世の中には
知らないほうが良いこともあるのな
彼は
泣いていた
ぎゅっと歯を喰いしばっているのがわかった
彼は盛んに
酔っ払ってるからこんな話するんじゃないぞ!と
くだを巻いた
仕方がない
丸川も今年で40の半ば回った
僕は彼の背中に手をまわし やさしく擦った
丸川はネクタイを緩めると
「チキショー!」と怒鳴って
バン!とテーブルを叩いた
「おい、ちょっと荒れすぎだぞ」
僕は丸川をたしなめた
店内を見回すと 隣席で
眉をひそめる顔とパチっと目が合ってしまい
軽く会釈した
もう出よう
丸川の腕を強引に引っ張ると
彼はそれを振りほどき
ぎゅっと僕を見つめて
「奢りだろ?」と訊いてきた
「ああ、お前のな」
そいうと彼はニヤリと笑い
「真鍋、お前だけだよ!」
そういって僕の首にするりと腕をまわしてきた
「なあ、もう一軒付き合えよ!」
時計を見ると
午前の4時を
とっくに過ぎていた
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