夜のナイフ、君はとても美しい。/ブライアン
 
 それからどうだったか。愛の告白をした友人は二度とナイフを手首に添えることはなかった。彼が命を賭して口説き落とそうとしても、誰一人として落ちる女性はいなかった。それが、たった一夜限りの関係であったとしても。彼の命はそれほど安くはない。ナイフを捨て去った後、彼はもう一つの手段を考えた。君はとても美しい、と繰り返し囁くこと。限りなく標準語で。程無くして、彼には彼女が出来た。命を賭したとしても、ろくなことはない。念願の夜、彼は彼女の耳元で囁くだろう。君はとても美しい、と。限りなく標準語に接近して。
 ベランダで叫んだ友人は、地元の電子部品組立工場に就職した。彼は初月給を頭金にして、ホンダのアコードワゴ
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