馬鈴薯/真鍋 晃弘
7月の朝
ピアノのある部屋の
ソファーの上にある
馬鈴薯に
花がついているのを
見た
夜露で濡れていた
そいつを
僕はタオルで
ゆっくりと拭った
馬鈴薯
受刑者のような
放浪者のような
釈明者のような
馬鈴薯
僕は見つめるしか
なかった
切れ目なく続く
命の螺旋を
馬鈴薯から
するりと伸びた
ちっぽけな蔓を
妻は霊媒師を
この家に呼び
祈祷をさせた
男の愚行が
30分間
続いた後
妻は気を失って
倒れた
殆どそれは
あのソファーの
上にある
馬鈴薯と
同じ形をしていた
もっとも
それと違う点は
一方が
食物であるということもう一方は
人間の
女であるということだ
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