焦点/ねなぎ
良く晴れた月曜の
憂鬱な空気が
僕の角膜の
屈折率を変えて
広角に見せるので
ただでさえ薄暗い
工場の中は
いよいよ真っ暗くなり
何も見えなくなるのです
悪意だけが
浮かび上がる
後ろで同僚たちが
大きな口を開けて
笑う声が聞こえます
引き裂かれる
断末魔の様に
鉄と切断機の音が
轟いて響く
月曜の不穏な空気が
屈折率を変えていくので
音の粘性が増して
何時までも耳に
へばり付くのです
悪意だけが
伝染していく
後ろでは
言い争う声がします
錆と溶接の火花が
橙色に降り注ぎ
つんざめいて
散らしていく
僕の目には
映っているのだが
水の底から
水面を眺めるように
薄ぼんやりとして
何も見えず
乱反射を繰り返すばかりです
帽子を被り直して
汗を拭う振りをして
作業服で目を
擦るのですが
空気はどこまでも
比重を増して
早く焦点を戻さないと
愛想笑いも
出来やしない
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