人指し指から、お願いします/木屋 亞万
 
この道を歩くと妖怪になれると聞いたので、来ました
噂の通り一升のお酢と一丁の豆腐を持って

幾つかのお寺が密集する間に、古びた町屋や商店が連なり
たまに覗く路地は、人がすれ違えないくらいの道幅
かすかに生活感は感じるけれど、人はいないし、音もない

しばらく行くと道はアスファルトから石畳へと変わって
一軒の町屋から着物の女性が現れました
扇が幾つも踊る派手な着物を見事に着こなした若い娘さんでした
手には風呂敷に包まれた瓶型の荷物、朱色の蜻蛉柄の風呂敷でした

お酢を一升、豆腐を一丁
さつま揚げはあるかいな、油揚げはないかいな
なければ味気のない豆腐だけ、お酢をグビグビや
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