幻覚の蛙/ホロウ・シカエルボク
 


縛られた記憶は
身体を自由にはしない
冷たい床の感触
フローリングの無機質
そばには蛙がいた
本当には居ない、小さな雨蛙
君は自由だ、とそいつは言った
「君は自由なんだ」
俺はこう答えた「だけど俺は鳴けない」
空を揺るがせるような鳴き声がない
「知ったこっちゃない」と喉をわずかに震わせながら蛙
知ったこっちゃない、君の鳴き声の種類なんか
何しに来た、と俺は答える、うんざりし始めている
俺はいつでもうんざりし始めてばかりいる、考えを放棄するから
その先に行くことがないだけのことだ
「縛られた記憶は 体を自由にはしないね」
と、いやな笑みを浮かべながら蛙が言った
[次のページ]
戻る   Point(0)