熔解/KETIPA
この日本語が疎ましくなったのは、戦後の黒雲を見てからのことだ。それまでの赤銅色だった夢は濃霧に追い出され、密度の高い煤煙のような言語が隙間なく染み込んでいった。鉄工所から噴き上げられる凝固した血液を体に浴びた。洗い落とすような豪雨が四日続いた。燻された都市の壁の間で、ぞろぞろと闊歩する人間の尊厳は斃れてゆく。葬式をしない溶鉱炉が稼動するさなかで、油まみれの仔猫が塀をかきむしり死ぬ。言語は包装紙のように道端に破棄される。いつ吸っても塵が混じっている大気を腹いっぱいに抱えて、街灯の下で球の切れた街灯のように立った。一発放たれた銃弾の音が枯れ果てた市民達を絶望させた。ここから言葉を思い出すまでに数年かかった。
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