朝のこない団地/
石畑由紀子
く沈黙が続いたあと
二・三度 力なくかかとを鳴らして
ふっと気配をなくしてゆく
リビングに戻って私もいつの間にか
ソファで眠ってしまう
翌朝 玄関を開けると
決まってコンクリートの床がうっすらと濡れている
男の玄関の差し込み口には
溜まった朝刊がこぼれかけていて
私は私の身を守ることで精一杯なのに
踊り場の窓から漏れる光が眩しくて
私はすぐに玄関を閉める
男は何をまだ背負っているのだろう
閉めきった暗い部屋で一人考える
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