朝のこない団地/石畑由紀子
 

先週の午後
雨と一緒に
隣の男が降った

最上階に住んでいるとそれだけで
いつでも飛び下りなさい、と
手招きされているような気がするので
荷物が重たくなった時などは
ベランダに近づかないようにしている
きっちりと鍵をかけて
しっかりとカーテンを閉めて
自分の身は自分で守るのだ

それができなかった男
荷物の種類は知らないけれど
男なりに重かったんだろう
実際ひどい音がしたから

自分の身は自分で守るものなのに

それから毎夜
階段を登る男の靴音が聴こえる
カーディガンをはおって
冷たい扉に耳をあてると
男の靴音は私の耳のそばで止まり
しばらく沈
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