音と景色と/HTNYSHR
 
めくるめく心象
春の景色を、見せてください
頭の中でずっと鳴り続ける
終わらない音楽を、聴かせてください

古びれた靴底の模様が
柔らかい地面に取り残されて
寂しそうに空を仰いでいる
明日の天気が心配なのだ
朽ちた廃屋の壁に伸びた蔦たちは
主の生活の残滓を隠蔽しようとして
わざとらしい顔で澄ましているが
傍らの木苺が美味しいことを隣のお姉さんが教えてくれた
むず痒いような風景を
繰り返し噛み砕きながら、風が震えた
ふと思う事をさらりと流す
僕とは何の関係も無い景色たち

深く大きな水槽の底
細かな石の上で揺れる藻をベッドにして
水面のゆらめきを見上げている
遠い光の眩しさが心地よいのだ
カラスが鳴いている
水が滴る
音が跳ねる
何時までも弾けない時間たち
もどかしいような音楽が
始まったのはずっと昔の話であるはずなのに
僕の景色たちは
最初に鳴った音の余韻で今も痺れている

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