月の光/xxxxxxxxx
彼女はまだ奏でている
上下を喪った世界の中で
ただ、淡々と。
ほの暗く光る指は
6本になり、4本になり、
超絶技巧的に
largeo《ゆったりと》
夜を刻んでゆく
私を刻んでゆく
赤く 赤く
終わりの
始まりの。
突き刺され
閉ざされて
内へと広がる
ほどけた糸
赤く 赤く
色を喪って
白い肌
黒い髪は流されてゆく
反射的に伸ばした手は
彼女のいのちを
掴んだ。
ああ
これこそが。
狂い求めた「月の光」
彼女が
耳も聞こえず
口もきけずに
奏で続けたものは
ここに、あった。
終わらない協奏曲は
時を奪いながら
永劫の夜に
ひとひらの悲しみを
織り混ぜて
いつまでも
いつまでも
いつまでも
いつまでも
全てが、溶けても。
私は
私を殺せなくなってしまった。
---
戻る 編 削 Point(0)