街/佳代子
レンジ一色に塗り込められた。手だけが人形を抱く。光る空間。日が昇ったのかもしれないとゾマスと赤毛猫と私は囁きあった。
橋を渡ると、そこには大きな黒いものが建っていた。マンションかしら?人はいない。窓はない。それは背に光を受けていたから、いっそう陰ってしまう。それは頼りなげで、地球誕生以前の混沌とした感情を持っているものにも見える。
ーゾマスに似てる。
と、赤毛猫がつぶやく。たしかに似ている。しかしそれは右半分だけのこと。ゾマスは左半分にびっしりとピンクのルージュを塗りたくっている。そして左では決して物を食べない。
橋のたもとから、道は斜めに延びていた。長い坂を上り詰めると、橋の向こうの街を隈なく一望する事が出来た。ああ、まったく馬鹿げてる。私とゾマスと赤毛猫は胸いっぱいの息を吐き出した。意気込みも活力も後退していく。私とゾマスと赤毛猫は声の限りに笑った。
街は瞬間の傷口のように唖然とした顔つきで、すでに破壊されていることを知らない。
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