こがねうた/木立 悟
真夜中の海を着て
子はひとり
見えない冬を聴いている
袖を握る手をひらき
ゆるりと腕を南へひらく
いつからか子は歌えなくなっていて
窓を流れる午後のむこうを
雨と雨のはざまの緑を聴いている
光の傷の生きものから
色の音や裂けめの泡
声の血の輪がひとつひろがり
ふたつひろがりみっつひろがり
子の横顔をひたしてゆく
黒い水が
街の頭に落ちてくる
それぞれの熱さと同じくらいの
ぬるやかな水
濡れた通りが影に踏まれ
混じり響く時間差の幽霊
過去と未来の顔たちを聴き
子は眠れないまま朝を着る
青空の奥に猛るけだもの
軋る
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