爆裂(上、前)/鈴木
――ばいばい。
と微笑んだ。渇きに似た感覚が胸に満ち言葉を放てば消えてしまう気がした、あるいは消えてしまう方がよいように思った。だが祥平は応じることができなかった。蛾が舞っていた。電灯にまとわり続け、こちらへ近づく様子はない。扉を開ける。両親はまだ帰っていなかったが、じき父親と風呂に入ることができた。その夜はもう幻を見ない。
――なにをしているのだ、せっかく忘れていたのに。もうすぐ大学二年生を迎えるぼくには恋人がいて名を絵里奈、えくぼの可愛らしい自慢の彼女だ。サークルは新入生歓迎に向けて動き出し、ぼくと絵里奈はお花見幹事だからケータリングや二次会の手配に万全を期して楽しい飲み会にする。
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