爆裂(上、前)/鈴木
 
シャガールの『クロエの誘拐』の複製画は明と暗の境界に位置しており、闇によってダフニスは天へ飛翔する間もなく頭を割られ、彼の抱く想い人は馘首の憂き目に会っていた。青と黄に血の気を失った二人の背後では、かがんだ男と、馬と、馬に跨った男が、赤く、薄明のなか、笑っている。ダフニスとクロエは笑っていない。死んだ。この絵画にまつわるストーリーを知っていた祥平の思考はそこで歯止めがかかったが、他方で問いが浮かんだ。なにが自分に知識をもたらしたのか? 答えはすぐに親だと得られた。突然、尻の激痛がよみがえった!
 親はなにをしているのか? そろそろ帰ってくる頃ではないのか? 約束のすき焼きは実現されるだろうか? 
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