遅れてきた青年の楽譜/《81》柴田望
 
味方億千の人びと眠る 深海に雨

  《遅れてきた青年》は《遅れてきた》ことをやめない やめると人間でなくなってしまうはずだったのに しがみつくほど傀儡と化す 時代は変わった どっちみち追い越せないし、間に合ってもだるい 夜、目覚めたら隣りに寝ていたはずの《遅れてきた》がいないぞこれは怖ろしいことか? どこもかしこも空白でかろうじてその縁にうっすらと苔むすノイズさえさっぱりとして血なまぐさくないぞ 近寄りたくないものが臭くないということは…麻痺したぞ、危険、何と比べて? 殺意と愛とをともにつらぬけず 青年はことし七十五歳くらいだ 情報化社会では《まだはじまっていない》も《遅れてきた》も近所仲間
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