うみからうまれたつばさ/nakahira
風は激しさを増し始めた。海面を舐められて、めくれあがる。
(ゆれている) (きえる)(わたしはきえる)
(そら)(じゆう)(わたし)
(きえたくない)(きえたくない)
(かえれないから)(そらへ)
(つばさ)
(つばさがほしい)
(もとめている?)
(わたしが)
(わたしはなに?)
(わたしはもとめている)
(こえ)(のど)
(つばさがほしい)
その瞬間、海は弾け、一群の波泡を岩礁に叩きつけた。
泡は霧散し、あるものは海へ沈み、あるものは消えていった。
海は少し不機嫌に渦を巻いていた。
少し前、岩礁に海鳥が一羽眠っていた。
叩きつけられた波に驚くこともなく、それが去ったしばらく後に目を覚ました。
まだ眠たそうな、穏やかな眼ざしを、泡立った水面にじっと向けていた。
やがて空を見上げ、ひどく嬉しそうに、まるで生を受ける前からの望みであったかのように、その翼を広げ、飛翔した。
少し前に海鳥は、一粒の泡の夢を見ていた。
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