うみからうまれたつばさ/nakahira
ただ煙るだけだった。その日もまた、その日までは。
波に揺られていた。眠るように眠り、発生と消滅を繰り返す。
海の胎盤の端、一粒の泡が表層に漂って、夢の内側で空を見た。泡は夢の中で考えていた。
(これはわたしじゃない)
(これはわたしじゃない)(わたし?)
(これはわたしじゃないだれか)
(だれ?)(なに?)
(わたしはだれ?)
(わたしはなに?)
一人の男が海岸沿いの高台に立って、暗い空を見ている。
東の空から雨は強く降り、波が泡立っていた。
(そら?)
男の、空に浮かんでいた視線の先が波の上に落ちる。
二度三度揺られて、ゆっくりとした速度で水中へ沈んでいく。
そう
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