夜中の電話/綿花
寝起きの声は不機嫌に聞こえる
彼女は一瞬言葉に詰まり
僕は微かな吐息さえも聞き漏らすまいと携帯を耳に押し当てる
「ごめん」
「謝るなって」 ……謝るなら僕だ
彼女はもう一度謝って 電話を切った
僕は ツー ツー という音を心許なく聞いていた
なぁ
君は知らないだろう?
僕が君を羨ましいと思ったことを
僕だって声が聞きたかったことを
だけど 電話なんてできるはずもなく
ふて寝するしかなかったことを
なぁ
君は知らないだろう?
僕が君を羨ましがってることを
声が聞きたい時に僕もすぐに電話をしたいと思ってることを
だけど 僕は男だから せめて君の前でくらい意地張ってたいんだ
君みたいに 素直に言葉を口に出せない僕は
やっぱり電話が苦手みたいだ
だから
君をこの手で抱きしめるために 慌てて自転車に飛び乗った
口下手だから 愛情表現は態度で示すよ
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