風を見ると懐かしい/木屋 亞万
ではありませんでした
彼女の言葉として詩になった瞬間だったのです
私の粗末な風生は彼女のなかに蓄積されたのです
最終的に彼女と触れ合うことはできなくとも
彼女の中にいることができて私はしあわせだと思います
彼女はテレビや雑誌でライオンのゆれる鬣を見ると懐かしくなり
フラミンゴの群れが飛ぶのを見ても、砂漠で風が舞うのを見ても
山が激しく吹雪いているのを見ても、梢が揺れているのを見ても
桜の花びらが風に流れていくのを見ても、白雲の漂う空を見ても
台風が飛行場で暴れるのを見ても、風車が何度も回るのを見ても
誰かが深呼吸をしたときや、思い切りくしゃみをしたときでさえ
風の気配を感じれば、自然と懐かしくなるはずなのです
そして
金木犀の風が頬をすり抜け
彼女の髪を透いたならば
何だか少し寂しい感じがするはずです
それだけで私は
生きていて良かったと思えるのです}
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