ノロマな深海魚/小野カオル
穴のような家に一日潜んでから
日が暮れて
空気を吸いに外に出る
あてもなく街を歩き
喫茶店と本屋をはしごして
何をしたいということもない
そうして雨に降られて
人気の無い大通りをなぞって
家に辿り着く
一日の長い時間を寝床ですごし
酒を呑み
無為に流れてゆく日々
人づきあいの
わずらわしさもなく
つくった顔の
うそ臭さもなく
明日のことも知れず
誰にもかまわれず
いつしか
世の人の海は溶けて透明になり
わたしは深海をたゆたう
魚になった
孤独にも安らぐ
ノロマな魚になった
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