時と音/木立 悟
 



水のそばに
水の羽があり
四つの水を映している

ひとつだけ蒼い波が来る
ふいにひろがり すぐに消え
ふたたびふたたびをくりかえす

窓に打ち寄せ
つもる影
屋根のつらなりのむこうを見つめる

何かを作るために
家は取りはらわれた
何かが 作られることはなかった

朽ちた野に
浪の音が到く
むらさきにわたる

銀の暮れ色に手をひたし
昇る小さな水の音
ふせるまぶたの音たちを見る

小さく息をのむ
むずがゆく笑む
甲に まなざしを浴びる

手のひらは手のひらを経て
たしなめられるように手のひらになる
花の上の 音の花を聴く

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