さよ/かのこ
ゆっくりと立ち昇っていく煙草の煙を
いち、に、さん、し、と雨が打ち消して
季節外れの、風鈴の音が聞こえる
りん、りん、猫が顔を洗っている
頭の中で
ろいやるみるくてぃーが
湯気をたてて
白くけぶって
記憶はいつもそんな感じ
やわらかな仕草で
手のひらを額のうえに
銀のスプーンでお皿を叩き鳴らして
呼んでくれた
今は宙ぶらりんで
ベランダから眺めている
物干し竿から垂れ落ちる、しずくに
思わず触れてしまいそうになって、いつも
雨雲のおかげで
ずっと続きそうな
暗い夜が
少しやさしいようで
ねぇ、たぶんずっと
言葉を交わすことは、ぼくには難しいから
風が吹けば風鈴の音、首を振れば首輪の鈴
いつだって時間のながれを
ぼくに教えてくれる
あたたかかった体温はうばわれる
しずくをまた、ひとつ、落としてしまう
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