Everybody Loves Somebody/渡 ひろこ
い
背徳の薫りを纏うにはまだ若すぎるのに
産毛の光る顔は、きっとその薫りすら気づいてないのだろう
彼女の選んだビターチョコの苦さは
舐めているうちに飽和していつしか違う味に変わる
みんな大人になるならカカオの含有量で決まればいいのに
相変わらずカードを持ち合わせないわたしは
甘さと苦さに挟まれて息苦しい
誰かが誰かを愛してる
陳腐な歌詞にうすら笑うことさえ許されないような
二重奏のむせ返る空間
まろやかなクリーム色と焦げ茶色が混ざり合い渦になって
わたしは捲き込まれ呑まれていく
濃厚な味が広がり舌が痺れる
ああ、喉がカラカラだ
硬質の水、が欲しい
目の前にカードが置かれている
乾いたわたしは素知らぬふりをして
スペードのキングを人差し指の腹で撫でた
戻る 編 削 Point(18)