せかいをいきる/吉田ぐんじょう
こか別の
まるで知らない場所のように見える
カーテンの後ろに
誰か隠れているような気がする
・
世界が広すぎるような気がして
不安な夜は
箪笥の引出しに入って眠ることにしている
引き出しの中の洋服に埋もれ
体をぐっと丸めて
止め処なくさびしがりながら
この
どこか高い山の頂上から吹きおりてくるような
さびしいという感覚は何なのだろう
心臓を一瞬止めるような
心を真っ青に染めるような
すっかり引出しを
閉めてしまえば安心である
まったくの闇の中には
暖かい
とても親しい感じの
何か大きいものが
いるような気がする
その大きいものに抱かれて眠る
眼を閉じると
洗剤のにおいと
皮脂のにおいがまじりあった
人間のにおいがして嬉しい
そしてわたしはもう一度
朝に生まれなおすのだ
ぎっぎと内側から引出しを開けて
あたりを見回しにやにや笑う
そうして
何も知らない子供のように
新しい世界にお辞儀する
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