しまい忘れた風鈴/木屋 亞万
 
鉄器風鈴の舌が鳴く
舌先に垂れる短冊
声量のある長く響く歌声
一匹はある夏風の布が
短冊を揺らすように
ゆっくりと流れ行く

風鈴は夏風が
めくる手紙にはさむ
しおりみたいなもので
夏風を受けた時だけ
鈴の舌先、恍惚風鈴
風の流れに風流を見る

しかし夏は去り
秋風、台風の強まると
風は布から刃に変わる
短冊の朝顔くるくる回り
薄紫、淡桃、黄緑、水色
刃に混じり合う色と悲鳴

冬風の部下、下卑た足軽が
しまい忘れた風鈴の短冊
朝顔を刈り取っていく
風の刃をにぎりしめ
窓から窓へ徘徊していく

冬を越えることができず
舌を切られた風鈴は
夏が来てももう鳴きはしない
足軽風の終わった先に
山のような短冊

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