渡り損ねたひと/恋月 ぴの
 


ほっぺを真っ赤にしたまーちゃんそっくりのお子さんが
お母さんに手を引かれながら
真っ白になった畦道をとことこ歩いていく

そんな光景を勝手に想像なんかしてみたりする


(四)

紅葉には一足も二足も早いのか
僅かに黄色く色づいた楓は夏の盛りを引き摺る風に揺れ
色鮮やかな狂乱の最終章を待ち望む
幕間の気だるさにも似た気配が山あいの静けさを支配して

スベア123Rの息遣いだけが
巡り行く生の揺らぎを物語っていた


(五)

適当な岩にふたり腰掛け
淹れたてのコーヒーをすすりながら
ちーママの差し入れをかじる

麻布にある有名店のクッキーだと
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