渡り損ねたひと/恋月 ぴの
 
(一)

「ぴーちゃん、ぴーちゃん
トイレってどこなのぉ」

河原の石をひっくり返しては
何やら探していた
まーちゃんが突然立ち上がったと思ったら
おいらの元へ駆け寄ってきた

こんもりとした隈笹の茂みを指差すと
一瞬躊躇したものの我慢しきれないのか
前を押さえながら茂みの奥へと消えていった

まーちゃん
本名なんて知りはしないし
これからも知ろうとはしないだろう
おいらにとって
「まーちゃん」はあくまでも「まーちゃん」で
大切な大切な友だちなのだから


(二)

根岸の家を飛び出して
新宿二丁目に流れ着いたとき
黄色い羽毛に覆われたおいらの容
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