亡命少女/佐野権太
 
水は柔らかく伸びて
青いさかなとなり
耳にふれてとけてゆく

鳥は低く弾けて
白いはねとなり
肌にぬれてしみこむ

きみの産卵する文字たちは
見たこともないのに
なつかしい、ゆらぎ
ボトルのこきゅう

そのひとふさを掬おうとすれば
とてもさみしがるから
そっと風をみつめる

サンダルは見あたらない
もしかすると初めから
なかったのかもしれない

どこから流れ着いたの
手を引いて
きみの眼底にかさなる

深層の紅をにじませた
白くまばゆい果肉を泳ぐ、胸に
遠い海のあじがする
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