錯視の鏡/智鶴
 
選ばれた僕に使命など無い、と
君はまた飯事を始めている
権利なら失う前に捨ててしまったよ、と
笑う君は、僕の目に映らない

いつも通りの無言が
君の体温を下げていく

たった数年前の秋のことで
空に浮かぶ雲は、未だ
月の目を隠して笑っている
もう左手のタトゥーは消えない
死んでも未だ
僕は今、月か罪かも分らない
全て知っていた筈なのに

諦めた二月
プラスチックは割れて
届かないように澄んだ雨を降らせて

もう君の残像は死んだだろうか
隠していたつもりの姿
雲は罪の目を開けて
笑っていた
死んでも消えないタトゥーの意味を
君は知らない
それなら、未だ在るかも分らない呼吸と
絶望の問

答えられない筈
僕は誰だった?
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