フライング・ケトル/夜間飛行/海里
小説も香水も好きだけど
ヤカンが飛ぶほうがいいと思っていた
空港の誘導灯も
機上から見下ろす街明かりも闇も好きだったけど
お湯を沸かすヤカン
ヤカンが飛ぶほうがいいなぁとは思っていた
だけど或る日
すすめられて初めて手に取ったひとの詩集で
ヤカンは本当に空を飛んでいた
飛び回るのみならず
花に水までやったりしていたので
これは私は負けたと思った
入沢康夫に負けたとはいっそ天晴れ
すすめてくれたひとは
呆れながら褒めてくれたようでしたが
それでは私は
私はヤカンに何をさせよう
真空をつめて
宇宙の果ての先まで送り出し
量子的なゆらぎのもと
無から
新しい素粒子たちが飛び出して来るのを待とうか
よく冷えたヤカンこそは
よく汗をかいているものだから
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