呼鐘/木立 悟
にもいない
焼け落ちてゆく無人の街なみ
おいでおいで
あっちへおいき
手のひらの鐘
鳴り響く
舌の上に血と空が重なり
雨音にも稲妻にも分かれることなく
呑み込まれなお呑みこまれながら
そのままの鐘を聴きつづけている
何かが流れ去っていた
光の色が変わっていた
水のような匂いがつらなり
涸れ川をひとすじ下っていった
白に遊び 銀に遊ぶ
夕陽にはない色
はじまりと終わりの外の手のひら
さかさまの刃の森から降りそそぐ
巡るものが描くむらさき
夜のうしろにある色を呼び
動かぬものに手を差し延べ
動かぬものを動かしてゆく
地に到くことのない静かな明るさ
痛みは今夜も牙の位置にあり
拡がりゆく火へ鳴り響いている
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