呼鐘/木立 悟
 
にもいない
焼け落ちてゆく無人の街なみ

おいでおいで
あっちへおいき
手のひらの鐘
鳴り響く

舌の上に血と空が重なり
雨音にも稲妻にも分かれることなく
呑み込まれなお呑みこまれながら
そのままの鐘を聴きつづけている


何かが流れ去っていた
光の色が変わっていた
水のような匂いがつらなり
涸れ川をひとすじ下っていった

白に遊び 銀に遊ぶ
夕陽にはない色
はじまりと終わりの外の手のひら
さかさまの刃の森から降りそそぐ

巡るものが描くむらさき
夜のうしろにある色を呼び
動かぬものに手を差し延べ
動かぬものを動かしてゆく



地に到くことのない静かな明るさ
痛みは今夜も牙の位置にあり
拡がりゆく火へ鳴り響いている



















戻る   Point(5)