ひよこなひと/恋月 ぴの
玉子の親じゃ、ぴよこちゃんじゃ、ぴっぴっぴよこちゃんじゃ、アヒルじゃぐぁーぐぁー。
(一)
「兄ちゃん、コイツをくんねぇ」
カーバイトランプに照らされた
みかん箱のなかで
ぴよぴよと行く末を案じ
心細げに鳴いていた黄色い群れのなかから
おいちゃんは
ひょいとおいらを掴みだした
おいちゃんの掌は
根っからの職人らしく
それでいて優しさに満ちていた
(二)
おいちゃんの家は台東区根岸にあって
代々通底器を作ってきた
仕事場の奥には
磨き上げられた通底器
真鍮板を叩いて成形した曲線は
まるで人肌のように滑らかで
どこ
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