待つ/佐々宝砂
しめやかであざらかな夜
かさぶたのようなくちびるを噛みしめる
暗い空のどこかから
豚の悲鳴がきこえてくる
月はすっかり遠く小さくなって
満月だというのに私の庭は暗い
でも私は知っている
約束の日がやがてはくるのだと
私の手は星に届かないという事実
もちろん月にさえ届かないこの指先に
遠ざかりゆく月からの光、わずかに
空間を隔てても
時を隔てても
そう230万光年の彼方から
アンドロメダが地球に光を投げかけるように
出会うものは出会うのだから
まだ私は待っていよう
静かに湿ったてのひらを握って
私は待つ
子宮内膜のように待つ
薄く引き延ばされる私の生
やがてほどけてゆく私の記憶
いつまでも
どこまでも
私が私でなくなるときも
まだ私は待っていよう
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