神楽火法典/詩集ただよう
へ担ぎ込まれた。
「急いできて頂戴、坂元さんとこにも連絡を入れて、あと、たし子伯母さんにも急いで」女はかけ付けてきた男に持たせたままの台帳をめくり「ないわ、常田せんせの連絡先も直ぐに調べて、また掛け直して頂戴」と、言った。
その間、四十一歳八ヶ月の男性が携えた無線を通して、現在四名の死亡が確認されたというやりとりはなされ、内二名は身長百六十センチメートル前後であった。本来一方通行である神楽坂の歩道には乗り上げた乗用車がごった返し、住民はたじろいだり気の毒に思ったり不意に走り出す者もいた。
して、外套の男はずさんにも身を起こし、泡を噴いていた。全身を激しく震わせ背筋をも伸ばせぬ格好。消火活動をひとしきり終えたものの依然として鳴り止まぬサイレンや、怒声、走り回る雑踏の中、いくつかぶつくさと何かを噴いた間もなく、男は目の前にいた人間にかけ寄り両袖肘を掴みあげ、立ち塞がり叫んだ。このとき周りに居合わせた数名の人間達は各々真っ先に何かの初動を見せることになる。あるいは男を羽交い締めにした。それほど咆哮する粘膜からは烈火の如く激しく泡が飛び散っていた。
「誰を殺したらいい」
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