瞳孔/月見里司
を負っていた。
(街が遠くに見える。向こう側のアスファルトはもう煙りだしている)
段々と、辺りに漂うにおいが判らなくなるのを感じながら、
バラ線に掛けた手を強く、握りしめていた。
はじめ掌に痛みを感じ、すぐに、掌ではないところにまで、痛みが拡がる。
(下草に、水に溶けた鉄錆のにおいが塗されていく。通り雨の強さだ)
犬は近づくのをやめて、唸るのもやめて、噛みつく相手を失ったような表情で、こちらを見ている。
そのまま、長く向かい合っていた。座り込んでも、近づいて来ようともせず、ただ頭越しに、
雨の降り出さない方向にある、小さな野火を見ていた。
//2008年9月7日
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