瞳孔/月見里司
 
錆びたバラ線のにおいは血液のそれだった。
立ち入ることのできない場所に立ち、触れれば噛みつくと、獣のように意思表示している。

(天気予報が雨を告げた時刻だ。まだ夕方というにも早いが、厚く曇り明るくもない)

犬が、こちらを見て唸った。
眼をまっすぐこちらに向けて、足取りだけは静かにこちらへ近づいてくる。
先祖がえりのような威厳に、一歩ずつ後ずさる。

(風が吹き始めていた。体温のような熱と、湿度を抱えた風。雨はそこまで来ている)

犬は一歩ずつ近づいてくる。
牙も見せず、しかし唸り声をあげて、眼は凝とこちらを見ている。
すでに、後ずさる場所がなくなり、背にバラ線の柵を負
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