悪意の在り処/岡部淳太郎
夏の暑い陽射しが照りつける道を、大量の汗を滴らせながら、ひとり当てもなく歩いているような気分だ。数え切れないほど大勢の人が存在していて、それぞれが勝手な思惑を抱いて犇めきあっているようなこの世の中では、それらの人の思いに四方八方を囲まれて身動きが取れなくなりそうになる。それぞれが勝手なことをわめき散らしていて、それが唯一の真実であるかのようにふるまって、世界の多様性を亡きものにしようとしている。そして、自分もまたそうした勝手にわめいている人間のうちのひとりに過ぎないのかと思うと、自分が人間であることがいやになってくる。この世から離脱して仙人にでもなって霞を食って生きていきたいような気分だ。
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