朽木のように/智鶴
暖かかった記憶の季節を
セピアの幻想に委ねた
涙も出ないまま
現実と幻想の区別もつかなくて
僕は狭間で漂って
たまによく知らない歌を口ずさむことくらいしか
出来なかったんだ
それでも未だに
燻ることも覚束ないほど
弱弱しく
草臥れたような映像を見る度に
ちらりちらりと浮かび上がって
僕を殺してくれない
見えなくなってしまいたかった
現実に酷似しすぎている僕の確かな感触が
映像を跨ぐ暇もないほど
鮮やかに
煌びやかに
残酷なくらいに僕を生かして
美しく見えないように
出来るだけ粗末に扱うふりをしながら
たいそう大事に鍵をかけた
そんな嘘を、僕はついている
今も
深層の僕の表情は
きっと誰にも分らないままだよ
そう考えると
ほんの少しだけ
僕は笑えているんだ
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