喪失の仮面/二瀬
 
知らない過去を、
  私だというならば
  私はもうどこにもいない

ぼんやりと雲の中に日が籠り、
足下を薄い影たちが通り抜けていった
波状をなして飛ぶ鳥たちは
壊れた電燈を越えて、記憶の幻影が
瞳の中を悪戯しているようで

  誰かを愛すれば、他の人は愛していない

  たったそれだけの分類が、
  私から言葉を奪いとった

こんな沈黙はいつも、雨あがりの小路で
君とこうやって手を握り合っている時
手と手の隙間さえなくて
まるで元から一つのようだから
私か君か、
どちらかの存在が嘘のような気がする

悲しい表情をしようとして
まったく悲しくないのが分かる
いつも悲しみは泣かない
すべからく私も泣かない
どこまで忘れていくというのか
それすらも分からない

ヒヨドリという名前だけが
私の檻にかろうじて残っていた
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