渡船場にて/北村 守通
父を失った海に
私は今日戻ってきた
父を失った海に
父の香りを探しに
父の愛した喫茶店
誰も見知らぬ駐車場
父の愛したパチンコ屋
誰も入れぬ鎖止め
干からびた
冷凍鰯か
鯵か
転がる防波堤の足元に
今日も
ボラの群れが咲き誇る
ボラの群れが踊り舞う
父は確かにここに居て
父は確かにここで笑って
父は確かにここで働き
父は確かにここに帰った筈である
父の愛したハイライト
私の肺には重過ぎる
されど
そこには確かな
確かな父の香りに満ちている
はまちの生簀が軋んで鳴いた
はるか彼方で
軋んで鳴いた
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